第56章

悟が立ち去り、病室のドアが閉まった。

廊下を遠ざかる足音が消えると、室内には生体情報モニタの微かな電子音だけが残った。

春はドアのそばに立ったまま、すぐには口を開かなかった。

葵はベッドの端に腰掛け、あの黒い暗号化ハードディスクを握りしめていた。外装は冷たく、縁にはわずかな擦れがある。何度も隠されては取り出された痕跡のようだった。

春は彼女の手元を見つめた。その手は、小刻みに震えている。

「葵」

葵は顔を上げた。

春は声を潜めて尋ねた。

「明日の朝の輸血、本当に行くのか?」

「行くわ」

春は一瞬呆気にとられた。説得の言葉を山ほど用意していたのに、あまりにもあっさりと頷かれ...

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